(第1話からの続きです)
臨時寝台特急あけぼのの二段式B寝台の下段ベッドに身をゆだねたものの、私は少々戸惑っていました。

同区画の方々との会話を楽しむべきか、それとも一人の世界に浸ってあけぼのの夜を静かに満喫すべきか。
昔ながらの開放式B寝台では、たまたま近くの席になった乗客の間で会話の花が咲くことがよくあります。
それが夜行列車ならではの楽しみだと思っている人も多いでしょうね。実際、私にもいい思い出がありますから。

でもね、ちょっと思うところがあり、今回は一人の世界に浸ることにしました。それでよかったと思っています。
というのも、最近個室の旅が続いたこともあってか、夜行列車で人見知りするようになってしまっていたので。
無理に笑ったり、話題を合わせたりして疲れてしまうことは日常でもよくあることですよね。それは避けたいなと。

向かい側のベッドの人や、私のベッドの上段の人には愛想の無い奴だと思われたかもしれません。
でも、夜汽車の旅に何を求めるかは人それぞれ。また、同じ人でもスタイルの変化があってもいいと思うのです。
多くのファンが予感しているように、もしかするとこれが本当にあけぼののラストランになる可能性もあります。
だからこそ、あけぼのの夜を静かに過ごしたかったんですよね。

そこでカーテンをすべて閉め、読書灯も消して車内の照明を極力遮断。この中に引きこもりました。
ただし、窓側のカーテンは開けて、流れ去る都会のネオンを肴に酒をちびちびとやることに。これがいいのです。

食堂車もロビーカーもないあけぼのでは、トイレに行く時ぐらいしか寝台を離れることがありません。
そのトイレの脇には昭和を感じさせる年季の入った冷水器が。今の列車ではほとんど見ることがないものです。

この使いにくい独特の紙コップも健在。子どもの頃は昼行の特急でもごく当たり前に見かけたんですけどね。
JR東日本では、上越新幹線の大清水トンネルの掘削工事中に湧き出た水を商品として販売しています。
その商品が登場したのが今から約30年前なのですが、それもあって冷水器が撤去され始めたのでしょうね。

さて、列車は高崎に到着しました。ここでは機関士の交代が行われることもあり、3分間停車します。

その時間を利用して多くの乗客がホームに出てきました。外の空気を吸うだけでも気分転換になりますからね。

今夜の停車駅はこの高崎が最後。次に停まるのは新潟県の村上です。いよいよ夜が更けてきました。

下りあけぼのの旅はここからが楽しいのです。だから私はアルコールの量をいつもより少なめにしていました。
冬の夜の上越線の風景を寝過ごすことなく満喫するためにです。上越線に入ると街の灯が少なくなります。
その分、星空がきれいになるんですよ。上越国境に向かってグイグイ高度を上げていく感じも私は好きです。

あいにく曇天だったのか期待したほど星空は楽しめませんでしたが、それでも夜の雪景色は風情があります。
水上に到着。もうとっくに今夜の列車は終わっているはずなのに、ホームには煌々と灯が点いていました。

線路の脇に堆く積もった雪。こんな光景でさえ郷愁を覚えてしまうのですから夜行列車の旅は不思議ですよね。
この先、長いトンネルを抜ければ雪国新潟。やっぱりあけぼのの旅は冬がいいなって改めて実感しました。
でも来年の冬はもう走らない。そんな嫌な予感に限って当たってしまうことも十分に知っていた私でした・・・(続く)
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