(第9話からの続きです)
寝台特急カシオペア号が最後の停車駅となる南千歳を出発した時、私にはある強い決意が生まれていました。
カシオペアの完乗を夢見ながらも成し遂げられなかった人がいる。彼らの思いを札幌まで届けなくては、と。
そう、私はまるで自分が、マゼランという偉大な主を失った船の乗組員であるかのような思いがしてきたのです。

その後、JR千歳線という名の“海原”は特に荒れることもなく、ナビ画面に札幌の文字が近づいてきたのでした。

車掌さんによる最後の案内放送が流れ始めました。後ろ髪を引かれる思いで降車の準備に取りかかります。

ナビ画面には、「まもなく終点、札幌です」の文字が表示されました。この現実を受け入れなくてはなりません。

北の大地のターミナル・札幌駅に敬意を表するかのように、寝台特急カシオペア号がゆっくりと入っていきます。

遂にこの時が来てしまいました。奇跡的に寝台券を手に入れてから、まだ2日も経っていないというのにです。
事態の急展開に心が追い付かないまま旅に出て、夢の世界から突然放り出されてしまったような気分でした。

札幌の到着時刻は12時39分。所定の時刻は11時15分ですから、1時間24分遅れての到着となりました。

札幌駅の到着ホームでは、早速先頭のディーゼル機関車付近に人だかりができました。記念撮影タイムです。

機関車がホームの先端ギリギリの位置に停止するのかと思っていたら、意外にもその少し手前に停止しました。
これなら機関車の正面写真を撮影することが可能ですね。ファンサービスの一環ということなのでしょうか。

カシオペアのヘッドマークも素敵ですよね。銀・赤・青のいずれの機関車の色にも調和する傑作だと思います。

先を急ぐ団体旅行の乗客の皆さんは、ツアーコンダクターに先導されて慌ただしく改札口に向かったようです。
ホームに残ってカシオペアが車庫に向かって出発するのを見送ろうという人は、思ったよりも少なかったですね。

列車が動き始めました。私はホームの先端に立ち、その雄姿を静かに見送ることにしました。美しい車体です。

星座としてのカシオペアといえば、誰もが知っている定番の星座。北極星の位置を確かめるのに便利ですよね。
そう、カシオペア座は、ほぼ1年を通して北の夜空に輝いていたのです。それは列車も同じだったのでは・・・

カシオペア座が消え去れば、北の夜空の星の位置関係が分かりにくくなってしまうのではないかと思います。
同様に、寝台特急カシオペアがなくなってしまったら、これからの旅人は北の大地をどう旅したらよいのでしょう。
カシオペア座のない暗い星空の下では、自分の立ち位置がよく分からなくて、私は道に迷ってしまいそうです。
そう、人生という道の途中で。さよならカシオペア。そしてさよなら、夜行列車で北の大地を旅した自分・・・(完)
コメント